2016年4月16日土曜日

【教育私論②】PISAトップの上海は新しい学力観へシフト



上海は2426万人の人口を擁する中国最大の都市であり、2009年と2012年に国際学力到達度調査「PISA」において世界トップの成績を収めたことが国際社会から注目されました。PISA(Programme for International Student Assessment)とは、経済協力開発機構(OECD)が2000年から3年ごとに実施している学力到達度調査テストです。その目的は、義務教育修了段階の15歳児がこれまでの生活と勉強で得た知識をどれだけ活用できるかを測定することです。(実際の問題例はこちらhttp://www.nier.go.jp/kokusai/pisa/からご参照頂けます)



2009年に初めてPISAに参加した上海は、数学的リテラシー、科学的リテラシー、読解力の3分野でトップにランクインし、2012年もトップの地位を独占しました。ちなみに、日本の2012年のランキングは65ヵ国中、数学的リテラシーが7位、科学的リテラシーが4位、読解力が4位でした。



PISAでの好成績は上海の教育に対する国内外の評価を高めましたが、上海政府は更なる点数向上と逆行する教育改革に着手し始めています。その目玉政策は「绿色指标」(グリーン指標)と呼ばれ、テストの点数を含めた以下の5つの指標で小中学校生の学習の質を評価します。



①モラルの発達(習慣、社会的責任、個性と性格、夢と信念など)

②学習に必要な力(知識と能力、自律、応用力、創造性など)

③好奇心と独自性の発達

④身体的・精神的健康

⑤学習の負担(授業数、宿題の時間、睡眠時間など)



なぜ上海はグリーン指標を導入するのでしょうか。その理由は、子どもの全人的発達を正しく把握し、それをサポートするためです。これまでの上海の教育ではテストが支配的な地位にあったため、学校と家庭は子どもの点数を上げるために過酷なテスト勉強の競争を繰り広げてきました。しかし、子どもが将来活躍するために必要な社会的責任、好奇心、身体的・精神的健康などはテスト支配型の教育の下では阻害されてきました。



例えば、自分の幸せだけでなく、他者や社会の幸せを考えて行動する社会的責任は、机に向かって勉強するという個人的作業だけでは育まれにくいと言えます。また、テストの点数をめぐる過剰な競争環境において、子どもたちは問題を解く機械と化し、本来重要な学習の目的と好奇心が損なわれてきました。そのため、上海政府は、未来必要となる学力を育むために、テスト支配型の教育環境を改革する必要がありました。



実は、冒頭で紹介したPISAは日本の教育政策にも大きな影響力を持つテストです。かつて日本の順位が後退した際には、PISAゆとり教育に対する危機感や批判を引き起こした一方で、日本の順位が回復すると今度は教育政策の成果として政治家のアピール要素に用いられてきました。しかし、PISAトップの上海はすでに脱PISAに向けて動き出しています。PISA2015の結果は2016年末に発表される予定ですが、日本が順位の変動に再び一喜一憂する価値はどれほどあるのでしょうか?

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